台湾人はあの世の存在を信じている。
だから、故人はあの世でも衣食住が必要になる。葬式や墓参りで、紙製のお金や日用品などを焼いて故人に贈るのだ。この贈り物を「紙紮(しさつ)」と呼ぶ。
紙紮は約2000年の歴史を持つ中華文化だ。昔はお金や衣服、お守り札など簡単なものだけだった。最近は本物志向が強まり、本物を写真で撮ったり印刷して、張りぼてを作り始めた。
「更に進化した紙紮を」と、小艶さん(31)は07年から紙紮店「skea」をオープン。建築模型のような精巧な家、本物そっくりの立体的なスマートフォンやノートパソコン、さらに食べ物や化粧品、つけ爪、船、金庫と何でも扱う。どれも、おしゃれでかわいい完全手作りだ。
小艶さんは「古風な紙紮は怖い感じで、格好悪かった。
故人があの世で本当に使うと信じているからこそ、現代人に合ったものが必要だと考えた」と語る。作り始めたきっかけは、温泉を愛した祖父が亡くなった際、地元の紙紮店に頼んでも作ってもらえなかった「温泉旅館」を自分たちで作ったことだ。完成した紙紮を見て、泣き通しだった祖母が笑った。自分も癒やされた。
「紙紮作りは意義のある仕事だと思った」と振り返る。
skeaの紙紮は不況知らずだ。伝統的な家なら約5000台湾ドル(約1万4000円)で買える。skeaの豪邸は16万台湾ドル(約45万円)と高価だが、現代人のニーズに合っているのだろう、よく売れる。台湾だけでなく、世界中から注文が入る。skeaが新風を巻き起こし、台湾の紙紮は多様性を増している。
紙紮は元々、亡くなった貴人や主君と共に近臣を埋葬する陪葬が残酷だと考えられるようになり、人の代わりとして発展した。
南華大学の楊国柱准教授によると、中国の後漢(西暦25~220年)時代に始まったようだ。焼く行為は天と神に通じることを意味し、紙紮は焼いて初めてあの世に届けることができると信じられる。
高価な紙紮を惜しみなく焼くのは、そのためだ。
中国で生まれた紙紮だが、中国全土を揺るがした文化大革命(1966~76年)の時代、伝統的な葬送儀礼が禁止され、廃れてしまった。台湾に残った紙紮を、今では中国が学んでいる。
台湾で一時流行した「ビキニ姿のギャル」の紙紮は、中国に「愛人」の紙紮として伝わったりもしている。
【台北・大谷麻由美】
毎日新聞 2011年2月28日 0時31分(最終更新 2月28日 1時25分) |